意見書・パブリックコメントの取り組み

 
「国民生活センターのあり方の見直しにかかるタスクフォース中間整理」 に対する意見書を提出しました。

 
 

2011年6月6日
 
「国民生活センターのあり方の見直しにかかるタスクフォース中間整理」に対する意見書 
特定非営利活動法人 消費者ネット・しが
代表 弁護士 土井 裕明

 
私たち「消費者ネット・しが」は、滋賀県内で消費者問題に取り組む市民、消費者団体、弁護士、司法書士などが組織している団体です。このたびとりまとめられました、「国民生活センターのあり方の見直しにかかるタスクフォース中間整理」について、以下のとおり意見を申し述べます。 
 
【該当箇所】2頁5行目
【意見】今回のタスクフォースは、「消費者庁と国民生活センターとの間に、多くの業務で目的・機能に重複がある」との観点から、「行政の無駄を省く」ことを直接の目的に着手されたもののように思われます。
 たしかに、両組織には、業務の一部に重複があることは否定できません。しかしながら、両組織の組織改革においては、単なる事務の効率化を目的とすべきではなく、消費者庁及び消費者委員会設置法附則3項の趣旨を踏まえて検討を行うべきものと考えます。
 同項は「政府は(中略)消費者の利益の擁護及び増進を図る観点から、(中略)消費者庁の関与の在り方を見直すとともに、当該法律について消費者庁及び消費者委員会の所掌事務及び組織並びに独立行政法人国民生活センターの業務及び組織その他の消費者行政に係る体制の更なる整備を図る観点から検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。」と定めています。
 つまり、両組織の組織改革は、消費者の利益の擁護及び増進を図る観点から検討されるべきものであって、組織のスリム化を目的として進められるべきものではありません。中間整理は、国民生活センターの機能を消費者庁に取り込みつつ、部分的にいわゆる「施設等機関」に機能を分離する方針ですが、このことによって、国民生活センターの既存の機能が弱体化されることがあってはなりません。以下、この視点に立って、個別の論点について、さらに意見を述べます。
 
【該当箇所】2頁10行目
【意見】国民生活センターが提供している各機能を一体として国サイドで実施すべきであるとの見解には賛成します。今般のタスクフォースによって、国民生活センターが事実上解体され、その業務が民間に丸投げされたり、地方行政に押しつけられたりするのではないかと、われわれ消費者団体は危惧していました。
 近時、行政よりも民間の方が効率的に業務を遂行できるとか、地方分権の名の下に行政権限を地方に移管することが至上命題のようにいわれており、福嶋長官もそのような趣旨の発言をしておられることから、われわれは、強い危機感を抱いておりました。国民生活センターの機能は、時に事業者との対決も余儀なくされるものであって、容易に民間に委託できる性質のものではありません。
 また、資格を有する相談員が未だに配置されていない市町村が多数あるくらい、地方消費者行政の現状は、貧弱です。現段階で、国民生活センターの機能を自治体に委ねたりすれば、多くの自治体において、期待される機能を果たすことはできません。すべての自治体において消費者行政の力量が十分に備わらない限り、国民生活センターが果たしてきた機能を地方行政に移管することは適切ではありません。国民生活センターが提供している各機能は、これを一体として国サイドで実施すべきです。
 
【該当箇所】7頁5行目
【意見】国民生活センターを廃止し、その機能を消費者庁に移管するという方針については、すでに既定路線のようになっているようです。しかしながら、以下に述べるような個別の問題点が解決されないようであれば、この路線自体も見直すべきものであろうと考えます。かりに、一元化を行うとしても、最低限、以下の点についてあらかじめ明らかにしておく必要があります。
 すなわち、消費者庁の所管する法律は、消費者庁及び消費者委員会設置法第4条に規定されていますが、国民生活センターは国民生活全般を業務の対象としています。両組織が一元化した場合、消費者庁が所管する法律に含まれない消費者問題について、どの組織が所管することになるのかが示されていません。
 たとえば、金融業者や商品取引業者が不当勧誘被害を出している場合、権限は金融庁や経済産業省にあるとされています。国民生活センターが、消費者庁と一元化された場合、従来なら対象とすることができていたこれら他省庁の所管法律事項について、施設等機関が対象にできなくなることはないでしょうか。省庁間のしがらみにとらわれる必要がなかった国民生活センターの長所を、一元化によって損なうようなことがあってはならないと考えます。
 
【該当箇所】7頁5行目、10行目
【意見】中間整理は、PIO-NETで情報を収集・分析し、これをもとに施設等機関が自治体の相談現場を支援することを想定しているように思われます。しかし、施設等機関自身が直接消費者からの相談を聞き、そのなかで情報を収集・分析するべきです。すでに、昨年127日の閣議決定で、国民生活センターの直接相談は廃止されてしまっています。
 しかし、このやり方は、従前の経過を無視した乱暴な措置であり、直接相談は復活すべきです。国民生活センターが直接相談を行うべきではないとの考え方は、平成13810日付「特殊法人等の個別事業見直しの考え方」(内閣官房行政改革推進室・行政改革推進本部事務局)、平成19730日付「国民生活センターのあり方に関する検討会中間報告」でも示されました。しかし、その都度、直接相談を廃止することは適当ではないとの判断がなされ、平成191224日閣議決定では、直接相談を維持することが明示されています。127日閣議決定は、従前の議論を反故にするものです。福嶋長官は、2011528日に大阪で開催された近畿弁護士会連合会主催のシンポジウムにおいて、「国立病院は必要だが、国立の医院は要らない」と発言されました。地方の消費生活センターや消費生活相談窓口がやっているのと同じことを、国が重ねてやる必要はないという趣旨と思われます。しかし、消費者問題への対応は、消費者からの相談を直に聞くことから始まります。PIO-NETの画面を見れば事件がわかるというのは、ガイドブックを読めば旅行に行かなくてもよいといっているのと同じです。
 直接相談は、経由相談よりもいち早く情報を入手するルートでもあります。相当数の相談を、直接受けることこそが、迅速・柔軟・的確な対応と、スタッフの質を確保するための不可欠の前提です。相談業務を施設等機関が担当することは当然として、直接相談を受けるルートの確保は絶対に必要です。
 
【該当箇所】7頁17行目
【意見】国民生活センターの各機能のうち、情報部門を消費者庁の内部部局化することには反対です。情報部門の機能は、施設等機関が行うべきです。これまでの国民生活センターの実績をみれば、情報の収集・分析・提供及び広報は、消費者庁の内部部局が行うよりも、国民生活センターが行う方が、柔軟性や迅速性に優れていることは明らかです。
 かりに、国民生活センターを消費者庁と統合することになったとしても、この機能は内部部局化すべきではありません。情報の収集・分析・提供及び広報は、事業者や産業育成省庁に遠慮することなく、毅然と実施しなければなりません。そのためには、この機能を内部部局に取り扱わせるのでなく、一定の独立性を有する施設等機関に担わせるのが適当です。さらに、施設等機関がこの機能に関して独立性を有するものであることを、組織法上も明示することが相応しいと考えます。
 もちろん、法執行上もこれらの情報は必要ですが、施設等機関が収集・分析した情報を法執行部門が活かすようにすればよいのであって、法執行部門が自ら情報を収集・分析することは不可欠ではありません。情報部門は、内部部局化すべきではありません。
 
【該当箇所】7頁17行目
【意見】商品テストを分離して、相談処理テストを施設等機関に、商品群テストを内部部局に割り当てることには反対です。商品群テストはどういう端緒で行われるものでしょうか。消費者からの苦情や相談があり、相談処理テストを実施し、これを発展させる形で商品群テストが実施されるのではないでしょうか。商品群テストは、直接相談や相談処理テストの延長上にある機能です。そうであれば、相談処理テストと商品群テストを別の部署に割り当てることは、国民生活センターの従前の機能を減殺することになります。商品テストは、一体のものとして、施設等機関に担当させるべきです。
 
【該当箇所】9頁32行目、1021行目
【意見】消費生活センター等、地方の現場に向けた国サイドのサポート体制を充実するとの方針には、もちろん賛成です。しかしながら、近時の状況をみると、このような方針を本当に実行できるか、危機感を覚えます。地方、とりわけ市町村の消費生活相談員は、日々孤軍奮闘しています。多くの市町村には、1名かせいぜい2名の相談員が配置されているに過ぎず、他の相談員と情報交換をする機会が乏しいのです。
 国民生活センターの相模原の研修所は、こうした孤独な相談員が情報交換をしながら研鑽を積む、貴重な場でした。このような研修所を廃止しておきながら、研修を含めたサポート体制を充実するといわれても、全国の相談員は、簡単には信用できないでしょう。消費生活相談員の業務は、きわめて専門性が高いものです。質量ともに充実した研修の実施に加え、相談員の法的位置づけを明確化し、その任用の安定を図り、専門家に相応しい処遇を求めます。なお、当会では、本年3月に、滋賀県知事に対し「消費生活相談員の雇い止めについての要請」を行い、相談員を安定的に任用するよう求めています。 
 
以上、さしあたり問題が明らかである点についてのみ、意見を申し上げました。われわれは、消費者庁ができた時、歴史的な前進だと感じ、大きな期待を持ちました。しかし、その後の消費者庁の様子をみていると、地方消費者行政活性化基金が配分されたことを除いては、大きな成果を実感することができません。期待が大きかっただけに、消費生活相談員の間でも、落胆の感は否めません。けれども、消費者庁は未だ発足後わずかの期間しか経過していませんし、職員数がきわめて少ないことの制約も理解できます。せっかくできた消費者庁ですから、是非とも消費者のために実力をつけていただきたいと願っています。そのためにも、「こんなことなら消費者庁より国民生活センターのままの方がよかった」ということにならないことを切に希望します。