意見書・パブリックコメントの取り組み

「消費者契約法の見直しに関する意見」を提出しました。

 

消費者契約法の見直しに関する意見

特定非営利活動法人 消費者ネット・しが
理事長 土井 裕明

 
1 今回の規定案については,現在よりも消費者被害の予防・救済を促進するという観点から,いずれも賛成する。
2 規定案に加えて,高齢者・若年者・障がいのある者等の判断力不足につけ込んで契約を締結させる,いわゆる「つけ込み型」勧誘については,消費者に取消権を付与すべきである。
 
【意見の対象】
 
「1 法第3条第1項関係(1)」に対する意見
1 法第3条第1項関係(1)
 努力義務を定めた消費者契約法第3条第1項のうち,契約条項の明確化に関係する箇所を改正し,事業者は,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになり,また,条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮するよう努めなければならない旨を明らかとすること。 
 
【意見の内容】
 規定案に賛成する。 
 なお,消費者契約の条項につき,複数の解釈が可能である場合には,「条項使用者不利の原則」(条項を作成した側すなわち事業者側に不利な解釈を採用するとの原則)を採用することも検討されたい。
 
【意見の理由】
  今回の規定案は,事業者が契約条項を作成するにあたり,その内容を明確で平易なものとするよう求めるものであり,紛争を予防するという見地から好ましいものである。
 しかし,さらに踏み込んで,「条項使用者不利の原則」(条項を作成した側すなわち事業者側に不利な解釈を採用するとの原則)をも採用すべきである。消費者契約においては,契約条項は事業者が一方的に作成するものであり,条項が不明確であるため紛争が生じたときは,そのような紛争を惹起させた条項作成者側が不利益を甘受するのが公平と考えられるからである。
 
【意見の対象】
 
「1 法第3条第1項関係(2)」に対する意見
1 法第3条第1項関係(2)
 努力義務を定めた消費者契約法第3条第1項のうち,事業者の情報提供に関係する箇所を改正し,当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨を明らかとすること。
 
 【意見の内容】
 規定案に賛成する。
 しかし,さらに踏み込んで,事業者の消費者に対する配慮を,努力義務ではなく法的義務とすべきである。
 また,規定案に加え,いわゆる適合性の原則を明文化すべきである。
 
【意見の理由】
1 商品・役務についての情報量に格差のある消費者契約においては,消費者は,事業者が提供する情報に依存せざるを得ない。事業者は,消費者の知識及び経験について考慮した上で適切な情報を提供すべきであり,そのことを明文化する今回の規定案に賛成する。
 しかしながら,このような義務は単なる努力義務にとどめるべきではない。事業者が消費者の知識及び経験に照らして適切な情報を提供せず,そのことによって紛争が生じた場合には,契約の無効や損害賠償義務など,事業者に不利益な法律効果が発生する場合もあることを念頭に,適切な情報提供義務を法的な義務と位置づけるべきである。成年年齢が引き下げられる可能性があるという現状を考えると,その必要性はさらに高い。
2 事業者は,消費者の知識及び経験について考慮した上で適切な情報を提供すべきであるにとどまらず,消費者の知識及び経験について考慮した上で不適切な契約を締結してはならない。この,いわゆる「適合性の原則」は,とくに投資契約の分野で確立された考え方である。消費者契約の基本法たる消費者契約法に,この原則を盛り込むべきである。
 
【意見の対象】
 
「2 法第4条第2項関係」に対する意見
2 法第4条第2項関係
 不利益事実の不告知(消費者契約法第4条第2項)の規定において,現行の消費者契約法では「故意」とされている事業者の主観的要件に「重大な過失」を追加すること。
 
【意見の内容】
 規定案に賛成する。
 しかしながら,より踏み込んで,故意・過失を問わずに,不利益事実の不告知があった場合には契約締結の意思表示を取り消せるものとすべきである。
 
【意見の理由】
 現行規定では,不利益事実を故意に告知しなかった場合にしか契約締結の意思表示を取り消すことができない。これでは,民法の詐欺と差がなく,この条文を置いた意味がない。
 この点,「重大な過失」を追加する旨の今回の規定案は,消費者の立証の困難を救済し,現在よりも消費者被害の救済範囲を拡大しようとするものであるから,そのことには賛成である。 
 しかしながら,不利益事実の不告知に故意または重過失を要求することは,不実告知の場合には故意・過失を問わずに取消しが可能であることと比較すると均衡を欠くものである。消費者にとって利益となる事実は,不利益となる事実とセットで告知されるべきものであり,主観的要件による限定は不要である。
 
【意見の対象】
 
「3 法第4条第3項関係(1)」に対する意見
3 法第4条第3項関係(1)
 消費者契約法第4条第3項の規定において掲げる行為(当該行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときは取消しが認められることとなる行為)として,当該消費者がその生命,身体,財産その他の重要な利益についての損害又は危険に関する不安を抱いていることを知りながら,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該損害又は危険を回避するために必要である旨を正当な理由がないのに強調して告げることという趣旨の規定を追加して列挙すること。
 
【意見の内容】
 規定案に賛成する。
 
 【意見の理由】
 霊感商法や,就職活動セミナーなどで多くの苦情が寄せられている,脅迫的な勧誘行為による被害を救済しようとするものであり,このような規定を設けることは実に適切である。
 
【意見の対象】
 
「3 法第4条第3項関係(2)」に対する意見
3 法第4条第3項関係(2)
 消費者契約法第4条第3項の規定において掲げる行為(当該行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときは取消しが認められることとなる行為)として,当該消費者を勧誘に応じさせることを目的として,当該消費者と当該事業者又は当該勧誘を行わせる者との間に緊密な関係を新たに築き,それによってこれらの者が当該消費者の意思決定に重要な影響を与えることができる状態となったときにおいて,当該消費者契約を締結しなければ当該関係を維持することができない旨を告げることという趣旨の規定を追加して列挙すること。
 
【意見の内容】
 規定案に賛成する。
 
【意見の理由】
 デート商法などで多くの苦情が寄せられている勧誘手法による被害を救済しようとするものであり,このような規定を設けることは実に適切である。
 
【意見の対象】
 
「3 法第4条第3項関係(3)(4)」に対する意見
3 法第4条第3項関係(3)
 消費者契約法第4条第3項の規定において掲げる行為(当該行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときは取消しが認められることとなる行為)として,当該消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に当該消費者契約における義務の全部又は一部の履行に相当する行為を実施し,当該行為を実施したことを理由として当該消費者契約の締結を強引に求めることという趣旨の規定を追加して列挙すること。
3 法第4条第3項関係(4)
 消費者契約法第4条第3項の規定において掲げる行為(当該行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときは取消しが認められることとなる行為)として,当該事業者が当該消費者と契約を締結することを目的とした行為を実施した場合において,当該行為が当該消費者のためにされたものであるために,当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしないことによって当該事業者に損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げ,当該消費者契約の締結を強引に求めることという趣旨の規定を追加して列挙すること。
 
【意見の内容】
 規定案に賛成する。
 
 【意見の理由】 
 事業者が,すでに義務の履行に着手してしまったなどと主張して消費者を困惑させ,これによって契約の締結をせまる手法を規制対象とするものである。
 竿だけ屋が,価格について十分に説明しないまま竿だけを切断してしまい,「もう切ってしまった」等といって契約をせまるような事例が報告されており,適切な規定案である。
 
【意見の対象】
 
「4 不当条項の類型の追加関係(1)(2)」に対する意見
4 不当条項の類型の追加関係(1)
 消費者契約が,物品,権利,役務その他の消費者契約の目的となるものの対価を消費者が支払うことを内容とする場合において,当該消費者が後見開始,保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項を無効とする旨の規定を設けること。
4 不当条項の類型の追加関係(2)
 次に掲げる消費者契約の条項は無効とする旨の規定を設けること。
ア 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項
(消費者契約法第8条第1項第1号及び同項第2号の規定の潜脱を可能とするような決定権限付与条項)
イ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされる当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項
(消費者契約法第8条第1項第3号及び同項第4号の規定の潜脱を可能とするような決定権限付与条項)
ウ 事業者に債務不履行がある場合に消費者の契約を解除する権利の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項
(消費者契約法第8条の2の規定の潜脱を可能とするような決定権限付与条項)
 
【意見の内容】
 規定案に賛成する。 
 しかしながら,規定案(1)(2)の類型の追加のみでは不十分である。
 いわゆる「サルベージ条項」を全部無効とすべきである。
 また,事業者の軽過失による人身損害の賠償責任を一部免責する条項についても全部無効とすべきである。
 
【意見の理由】
 規定案に掲げる条項が不当であることは明らかで,このような条項を設けることには賛成である。
 しかし,さらに,以下のような不当条項もリストに加えるべきである。
1 サルベージ条項
 「本規約のいずれかの条項が,法令により無効と判断された場合であっても,無効とされた規定の残りの部分は,なお完全な効力を有するものとします。」といった条項がサルベージ条項である。
 サルベージ条項は,事業者に対して条項を明確に定める動機を失わせることになる。
 また,本来は全部無効となるはずの契約条項でありながら,この文言を挿入することによって,容易にかつ事業者にもっとも有利なぎりぎりの限度で,条項の有効性を確保できることになり,信義則に反して,著しく事業者に有利な条項である。
 このような条項は,不当条項リストに加えるべきである。
2 事業者の軽過失による人身損害の賠償責任一部免責条項
 人の生命・身体は,そもそも合意によって処分できるものではない。生命・身体の侵害の賠償責任の免責条項については,それが一部免責であっても,有効とすべきではない。これも,不当条項リストに追加すべきである。
 
【意見の対象】
 
「法第9条第1号関係」に対する意見
法第9条第1号関係 
 消費者契約法第9条第1号の規定における「平均的な損害の額」に関し、消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には、その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けること。
 
【意見の内容】
 規定案に賛成である。
 さらに踏み込んで,端的に「平均的な損害の額」の主張・立証責任を事業者に転換すべきである。
 
【意見の理由】
 消費者が事業者に生ずべき平均的な損害の額を立証することはきわめて困難である。したがって,消費者が類似業者の平均的損害の額を立証した場合に,当該事業者の損害額と推定する規定を置くことは,立証負担を軽減する意味を持つ。
 しかしながら,もともと,事業者は,自らの資料によって,平均的損害を主張・立証することは容易なのであるから,端的に,「平均的な損害」の主張・立証責任を事業者に転換すればよいだけのことである。
 今回の規定案は,現行規定からは一歩前進ではあるが,まだ不十分といわざるを得ない。
 
【意見の対象】
 「その他」に対する意見
 
【意見の内容】
 高齢者,若年成人,知的または精神の障がいを有する者など,知識・経験・判断力が不十分である者に対し,これを不当に利用して契約締結を勧誘する行為(いわゆる「つけ込み型勧誘」)ついて,消費者に取消権を付与する規定を設けるべきである。
 
【意見の理由】
 今回の規定案には,消費者が合理的な判断ができない状況を事業者が作出し,その状況を不当に利用して契約を締結させる不当勧誘について,取消権を付与する規定が盛り込まれている。
 しかし,消費者が合理的な判断ができない状況がもとから存在する場合に,これに乗じて勧誘する「つけ込み型」については,規定案が設けられていない。
 しかしながら,高齢者や知的または精神の障がいを有する者の消費者被害が多発している上,民法の成年年齢が引き下げられる可能性があることを考えると,状況作出型の勧誘のみならず,つけ込み型の勧誘についても取消権を設ける必要性は極めて高い。
201788日の消費者委員会答申中の「付言」においても,「特に早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題とされた事項」として,「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」を設けることが挙げられている。
 にもかかわらず,今回の規定案において,この部分があえて除外されていることは理解に苦しむ。消費者委員会がその必要性を明言しているのに,消費者庁がこれを無視することは許されない。
 つけ込み型勧誘についての取消権の導入を,今回の改正において実現することを強く求めるものである。
 


以上