意見書・パブリックコメントの取り組み

いわゆる健康食品に関する景品表示法及び
健康増進法上の留意事項について(案)」に対する意見を提出しました。

 

2013年11月28日

特定非営利活動法人消費者ネット・しが
代表 土井裕明

「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び
健康増進法上の留意事項について(案)」に対する意見


標記の件について,下記のとおり,意見を申し述べる。



第1 意見の趣旨
1 疾病の治療又は予防を目的とする効果や,身体の組織機能の一般的増強,増進を主たる目的とする効果を明示的に標ぼうする広告・表示はもちろん,そのような明示がない場合であっても効果を暗示している場合には,健康増進法や景品表示法に抵触するという問題以前に,そもそも薬事法違反となることを明記すべきである。

2 特定の保健の用途に適する旨の効果を標ぼうする広告・表示についても,それが保健機能食品でない限り,健康増進法や景品表示法に抵触するという問題以前に,薬事法違反となることを明記すべきである。

3 効能・効果を暗示する広告・表示の例として,体験談,タレントによるコメント,医者による論評,学会論文の引用,巧妙な言い回しなどの具体例を豊富に盛り込むべきである。

4 保健機能食品以外の食品については,栄養成分の機能や健康増進効果が期待できるかのような印象を与える表示が許容されないことを明示的に記載すべきである。

5 案の12頁にある,「実際は,医学,薬学,栄養学等学問上は標ぼうされる効果がないことが明らかになっている場合には,著しく事実に反し,著しく人を誤認させる表示として,景品表示法及び健康増進法上問題となる」との記載を,「医学,薬学,栄養学等学問上は標ぼうされる効果があることが明らかになっていない限り,著しく事実に反し,著しく人を誤認させる表示として,景品表示法及び健康増進法に違反する」と訂正すべきである。

第2 理由
1 いわゆる健康食品の広告・表示の現状について
いわゆる健康食品の広告・表示は,現行法上も,薬事法,健康増進法,景品表示法,食品衛生法等の規制の下にある。しかし,現実には,体験談,タレントによるコメント,医者による論評,学会論文の引用,巧妙な言い回しなどを駆使して,明確な治療効果や予防効果があるかのように消費者が誤信するように,意図的に誘導する広告が横行している。ところが,残念なことに,明確に「治る」と表現するような場合でない限り,薬事法上の取り締まりは行き届いていない。また,健康増進法32条の2では「著しく事実に反する」表現のみが禁止されているため,効能効果が不明な場合に曖昧な表現をしたり,多少の誇張した表現をすることは許容されるかのように解釈する事業者がある。さらに,医薬品,保健機能食品(特定保健用食品と栄養機能食品)以外には,機能表示は認められていないはずであるが,現実には,間接的な表現等を駆使して,食品の効能効果を大々的に表示する行為が横行し,効果的な規制はできていない。とりわけ,サプリメントに関しては,一般消費者にとって,医薬品との区別がつきにくくなっているし,いわゆる健康食品を過信することにより,治療機会の喪失,内容成分による健康被害という健康被害も発生している。また,役に立たないサプリメントに多額の支出を促すような事業活動は,健全な商業活動の範囲を逸脱している。

2 薬事法との関係について
健康増進法が「著しく事実に反する」表現を,景表法が「実際のものよりも著しく優良」であると示す表現を,それぞれ禁止することとしているため,事業者は,「事実に反していても著しい程度ではない表現」,「実際のものよりも多少優良であると誤認させる表現」は,許容範囲であると考えがちである。しかし,健康増進法や景表法上直ちに違反とまではいえない広告・表示であっても,それが,疾病の治療又は予防を目的とする効果や,身体の組織機能の一般的増強,増進を主たる目的とする効果,特定の保健の用途に適する旨の効果があるかのように,一般消費者に受けとめられるおそれがあるものであれば,薬事法上違法となると考えるべきである。今回の「留意事項」は,直接には健康増進法と景表法の運用基準を示すためのものではあるが,この基準を逆手にとられて,薬事法上問題がある表現であるのに,健康増進法と景表法上は問題がないという業者側の主張を許すことがあってはならない。「案」の9頁に掲げられた表示例も,明らかに薬事法違反である。実際には,もっと間接的な表現で薬事法違反を問われないように,巧妙に工夫された広告・表示が一般的なのであり,「案」の表示例は,実質的には役に立たないと思われる。たとえば,「○○には,高血圧を改善する効果があるといわれています。この商品には○○が○㎎含まれています。」といった広告でも,消費者は,疾病の治療又は予防を目的とする効果があるものと認識するであろうし,事業者も,そのような意図でこのような広告をするのである。いわゆる健康食品の広告には,この種のものが氾濫しており,すべて薬事法違反であることを,「留意事項」の中でも明確に宣言しておくべきである。

3 薬事法違反を回避しようとする広告手法の規制について
いわゆる健康食品の広告には,体験談,タレントによるコメント,医者による論評,学会論文の引用などが多くみられる。虚偽の体験談が使われていると思われる例もあるし,タレントによるコメントにも,実際にその食品を摂取していないのに,その効能を讃えていると思われる例もある(効能に言及すること自体薬事法違反の問題がある。)。

4 栄養成分の機能表示について
さすがに「このサプリを飲めば血圧が下がる」とはっきり記載するような広告はまれであるが,「○○(内容成分)には血圧を押さえる効果があります」という広告は多い。いわゆる健康食品の広告のほとんどは,栄養成分の機能の表示と,疾病予防や保健目的の暗示を組み合わせたものである。「年をとっても,いつまでも元気で歩きたいですね。年齢を追うごとに,関節の潤滑成分が減っていきます。この商品には,年齢とともに減っていく○○がたっぷり入っています。」といわれれば,一般の消費者は,この商品を飲めば足の関節痛が緩和すると理解するはずである。けれども,当該内容成分にそのような効能があるか否か,評価は定まっていない場合もある。かりにそのような効能があったとしても,その商品を服用することで効果が発揮されるか否かは,成分量等の問題があるのでまた別の話である。栄養成分(内容成分)の効能について,明示的にも黙示的にも言及することを厳しく規制することで,この種の不当な広告を締め出すことが期待される。

5 案の12頁の例について
案の12頁にある「実際は,医学,薬学,栄養学等学問上は標ぼうされる効果がないことが明らかになっている場合には,著しく事実に反し,著しく人を誤認させる表示として,景品表示法及び健康増進法上問題となる」との記載には,問題がある。効果がないことが明らかになっている場合に,効果があるかのように表示することが違法なのは当たり前である。例としてあげるのであれば,効果があるかどうか評価が定まっていないのに,効果があるかのように示唆するものをあげるべきである。さらにいえば,疾病の治療又は予防の効果があるとか,保健の用途に効果があると読めるような表示をすること自体が薬事法違反であるから,効果があるかどうかを問題にする以前に,許されない広告が多数あることをはっきり示しておくべきである。

第3 最後に
いわゆる健康食品の表示・広告の問題は,薬事法に抵触するにもかかわらず,健康増進法や景表法上は許容される部分があるかのようにみえるところに本質的な問題がある。当面の課題として,このようなガイドラインを策定する必要を否定するものではないが,本来的には,健康増進法を改正して,「人の疾病の治療または予防」に有益であるかのような広告が禁止されていることを明示し,健康増進効果の表示は,内容成分の効果ではなく,当該食品そのものの効果を,科学的に証明できる場合にのみ許されるものとすべきであると考える。
以 上