意見書・パブリックコメントの取り組み

消費者契約法中間とりまとめに対する意見書を提出しました。


消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見書

 

第1 「消費者」概念の在り方(「中間取りまとめ」4頁)

1 意見の趣旨
 消費者には,以下のような者も含まれることを明記すべきである。
(1)事業者の不当勧誘行為によって締結された契約によって事業者性を具備した者
(2)自己の事業に直接関連しない取引を行うために契約の当事者となる場合の事業者
 
2 理由
(1)事業者の不当勧誘行為によって締結された契約によって事業者性を具備した者
 これに該当する例として,一般の消費者に対し,軽貨物運送事業の起業を勧誘し,そのための車両 を購入させるという事案が多数存在する。また,フランチャイズ形式でコンビニエンスストアを開業させることを勧誘する例もある。
 このような例では,事業開始後は事業者となるものの,当初の勧誘段階,契約締結段階では,契約当事者はまだ消費者である。
 なにより,当初の段階では,勧誘を受ける側は,情報量も少なく,交渉力も弱いのであるから,まさに,消費者契約法の保護を受けるべき対象であるといえる。
(2)自己の事業に直接関連しない取引を行うために契約の当事者となる場合の事業者
 事業者が十分な情報と交渉力を持っているのは,その事業者が事業として取り扱っている範囲に限られる。形式的には事業者であっても,専門分野以外では,一般の消費者と何ら変わりはない。
 この点,特定商取引法のクーリングオフが可能か否か(特定商取引法26条の「営業のために若しくは営業として締結する」に該当するか否か)についての判例が参考となる。*1消費者契約法は,契約の当事者を事業者と消費者に二分するが,その目的は情報量や交渉力に格差のある当事者間の契約の不公平を是正しようというところにある。そうであれば,単純な二分論はいずれ見直しをせまられることになるはずである。
 
第2 情報提供義務(「中間取りまとめ」5頁)

1 意見の趣旨
 事業者が消費者に対して法的義務として情報提供義務・説明義務を負担していることをあきらかにすべきである。
2 理由
 事業者と消費者との間の情報量の格差を埋めるためには,事業者が消費者に対して,一般的な情報提供義務を負担していることをあきらかにすべきである。
 これは,「買主注意せよ」という態度から「売主注意せよ」という原則への変化を,法律上も明示することを意味する。
 すでに,金融商品取引においては,事業者側の説明義務を前提とした判決が多数出ている。消費者契約法の不利益事実の不告知もこうした考え方を前提としているもののはずである。後述のアビバ事件でも,裁判所は,事業者に説明義務があることを指摘している。
第3 「勧誘」要件の在り方について(中間とりまとめ9頁以下)
1 意見の趣旨
 ウェブサイト上の広告や,チラシ・看板等の広告,顧客勧誘のためのパンフレット上の記載など,従来「広告や表示であって勧誘ではない」とされてきたものについても,その内容に不実の記載があって消費者が誤認により契約を締結した場合には,その意思表示を取り消すことができることをあきらかにすべきである。
2 理由
 従来,消費者庁は,「広告・表示は勧誘ではない。」という解釈をとってきた。
しかし,契約締結の動機形成に向けられた行為という意味では,個別の顧客に対して説得を行う狭い意味での「勧誘」も,不特定の顧客に対して働きかけを行う広告や表示も,実質的に変わるところはない。諸外国の法制をみても,勧誘と広告・表示を峻別するのが一般的ではないようである。
 不実の内容を含む広告・表示が許されるはずはない。景表法上違法とされる広告であっても同法に民事効がないため,不実広告を信頼して契約締結に至った消費者の救済は,法の穴となっている。法改正を行って,「勧誘」には「広告・表示」を含むことを明示すべきである。
 なお,広告に含まれる軽微な不実記載を取り上げて意思表示の取消事由とされることに対する事業者側の懸念もあると思われるが,消費者側には,不実記載のある広告を原因として誤認に陥り,その誤認に基づいて契約締結の意思表示をしたことまでの主張立証責任が課されているのであるから,けっして事業者側に不均衡なまでに過大な負担を負わせるものではない。
 
第4 不利益事実の不告知について(中間とりまとめ12頁以下)

1 意見の趣旨

 利益となる内容を示して勧誘しながら,実際にはそれと関連の強い不利益な事項を告げない場合(不実告知型)の取消しには,故意を不要とすべきである。

 消費者の契約締結の意思決定に影響を及ぼす重要な事項に関して,故意または重過失によって告知しなかった場合(不告知型)には,先行行為としての利益の告知がないときでも,取消を認めるべきである。

2 理由

 不実告知型の典型例としてあげられるのが,近い将来に眺望が遮られることを知っていながら, 眺望をセールスポイントにしてマンションを販売するという事例である。これは,実質的な不実告知であり,現行法の4条1項の不実告知と同視できるのであるから,要件としての故意は不要である。

 同様の事例で,積極的に眺望を推奨はしないものの,消費者が眺望を重視していることを知り,近い将来に眺望が遮られることを知っていながら,あえてそれを告知しない場合が,不告知型である。
このような場合でも,事業者側には,不利益事実を告知する義務があるといえるし,その義務は,健全な商道徳の問題としてはもちろん,情報格差を補完するという消費者契約法の理念に照らし,すでに法的な義務になっていると評価してよい(このような考え方を基礎づけるためにも,総論部分での事業者の説明義務の規定は整備されるべきである。)。
 消費者契約法施行前のアビバ事件*2でも,消費者契約法1条を引用して,事業者側の告知義務を認め,不法行為を肯定している。したがって,不告知型の不利益事実の不告知の場合でも,事業者側に故意または重過失があるときは,先行行為としての利益の告知がないときでも,意思表示の取消を認めるべきである。

第5 「重要事項」について(中間とりまとめ15頁以下)

1 意見の趣旨
 「重要事項」のなかに,いわゆる動機である「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を付け加えるべきである。

2 理由
 実務上多発している事例として,床下にシロアリがいるとの不実の説明をして,駆除工事を勧誘する例,耐震構造に問題があるとの不実の説明をして,耐震工事を勧誘する例がある。
特定商取引法上は,こうした契約の動機や必要性に関する事項も重要事項に該当することがあきらかにされており,不実告知があれば意思表示を取り消せるようになっている。
 ところが,消費者契約法上は,「物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質,用途その他の内容」,「物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」と定められていて,意思形成にいたる動機や必要性に関する事項が重要事項に含まれるか否かが明らかでない。
 すでに,判例上は,契約の前提となる事情についての不実告知を取消事由と認めたもの*3もある。消費者契約法上も,特商法と同様に,動機形成に向けられた説明事項も重要事項に含まれることを条文上明記すべきである。

第6 不当勧誘行為に関するその他の類型(1)「困惑類型の追加」について(中間とりまとめ17頁以下)

1 意見の趣旨
  執拗な勧誘,威迫による勧誘を困惑取消の対象とすべきである。

2 理由
 現状では,不退去,退去妨害のみが困惑類型に掲げられている。しかし,そのほかにも,消費者を困惑させる手法としては同様に保護の必要性がある態様がある。
 たとえば,自宅や職場に執拗に電話をかけて投資用マンションを販売しようとする執拗な電話勧誘,一時流行した「逆ギレ商法」や「先祖のたたり」があると申し向けるといった威迫による勧誘による事案も多いのである。
 これらは,実質的に,不退去や退去妨害と同等か,それ以上に消費者を困惑させる度合いが大きいのであるから,同等の保護措置を講ずる必要がある。

第7 不当勧誘行為に関するその他の類型(3)「合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型」について(中間とりまとめ20頁以下)

1 意見の趣旨
 高齢者や障害者など,十分な判断を行うことができない状況を利用して不必要な契約を締結させる,いわゆる「つけ込み型不当勧誘」について,契約を取り消せるようにすべきである。

2 理由
 認知症や精神疾患,知的障害等が原因で合理的な判断ができない状況にある消費者を狙った消費者被害が多くあることは,国民生活センターの統計等でも明らかである。
未成年者については,民法の未成年者取消で対応が可能であり,実際,悪質な事業者側も未成年者には手を出さない。認知症のある高齢者や知的障害者については,成年後見制度を活用してこれを保護することは可能であるが,実際には,成年後見制度が十分に活用されていないという状況がある。
 専門調査会の議論においても,事業者が消費者の判断力の不足等を利用して不必要な契約を締結させるという事例について,一定の手当てを講ずる必要性があることについては特に異論は見られなかったということであり,問題は,契約を取り消せるために,どのような要件を設定するかという点である。
 事業者側からみれば,容易に契約を取り消されるような要件設定は避けたいとの意見が出ることは当然であろう。
 しかし,未成年者取消しや,成年後見制度の取消しであれば,取引の相手方が未成年であることや制限行為能力者であることについて,事業者側の認識すら不要であることを忘れてはいけない。判断能力が不十分なために,経済的損失を被るおそれのある人を保護するにあたっては,事業者側の犠牲もやむを得ないというのが,民法の価値判断である。
 そこで,契約の当時判断能力に問題があったこと(認知症の診断を受けていたこと,精神疾患の状態にあったこと,知的障害者であったことなど)と,消費者の経済状態に鑑みて健全な支出ではなかったことまたは不必要な契約であったことを消費者側が主張立証した場合には,事業者側において,契約が相当であると信じた事情(免責事由)を主張立証しない限り,契約を取り消せるものとするのが適当ではないかと考える。

第8 取消権の行使期間(中間とりまとめ24頁以下)

1 意見の趣旨
 消費者取消権の行使期間を,少なくとも,取り消せる事実を知ってから3年,契約から10年とすべきである。

2 理由
 消費者契約の種類によっては,相当の長期間が経過してから始めて不実告知に気づくというものもある。たとえば,投資用マンションの販売の場合,賃貸収入が購入資金の借入金の返済を上回るというセールストークで勧誘するが,実際には,契約から何年もたつと,経年劣化によってマンションの賃料相場が下落する。その時点で始めて,当初の見通しが甘かったことに気づくのであるが,すでに契約から5年を超えており,現状では,消費者契約法による取消権は使えない。
 同種の被害が多発していることを,報道で知り,その時点ではじめて不実告知があったことに気づくというケースでも,契約時から長期間が経過していることが少なくない。
 また,被害に遭った消費者が,被害に気づいて直ちに消費生活センター等に相談することはむしろ少ない。特定商取引法のクーリングオフでも,期間経過後にはじめて消費生活センターに相談する事例が多数あることも参考になろう。
 不実告知や退去妨害等は,すでにそれだけで事業者側に帰責事由があるのであり,取消権の行使期間をある程度延長しても,何ら不当ではない。

第9 不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果について(中間とりまとめ27頁以下)

1 意見の趣旨
 契約の取消しの効果については,消費者側は現存利益の返還で足りることを明記すべきである。

2 理由
(1)継続的契約やサービス提供契約の取消し
 新聞の定期購読やいわゆる健康食品の継続的購入などの継続的な契約,あるいは役務提供契約を,消費者契約法に基づいて取り消した場合,すでに消費した商品や提供を受けた役務について,すでに受領したものをそのまま返還しなければならないとすると,契約を取り消した意味がなくなってしまう。
 とりわけ,現在並行して進行している民法改正の作業において,未成年者と制限行為能力者の取消しの場合を除き,現存利益の返還という考え方がなくなる可能性がある。民法改正がそのような形で進むなら,消費者契約法に基づく取消の効果を明示しておく必要性はさらに高くなる。
 消費者契約法に基づいて契約が取り消される場合というのは,不実告知や断定的判断の提供,不退去等による困惑などがある場合であり,事業者側に一定の非があると評価できるケースである。そのような場合には,事業者側の損失において消費者を保護するのが適当なのであり,消費者契約法に基づいて契約が取り消されたときは,消費者は,現に利益の損する限度においてその返還をすれば足りることを明記する必要がある。

(2)使用利益が問題になるケース
商品引き渡しの時から取消し後の返還の時までの,商品の使用利益が問題とされるケースでも,同様のことが発生する。
典型例としてあげられるのは,中古車の売買契約で,不実告知を理由に売買契約が取り消された場合に,期間中のレンタカー代相当額の返還を要求されるという事案である。
 これについても,返還を要するのは,当該期間中の評価落ち(減価償却相当額)であることを,少なくとも,消費者庁の行政解釈においてあきらかにしておくべきである。

(3)動産売買契約の取消と返還義務
 また,デート商法で高額の貴金属を購入させられ,退去妨害を理由に売買契約を取消したが,その時点で,当該商品を質店に売却してしまっていて,現品を返却できないといったケースもある。
 この場合,現品を返却する債務が履行不能になっているから,消費者は金銭賠償をするしかないが,その金額を商品代金相当額と評価してしまうと,取消しをした意味がなくなってしまう。
 このような事例でも,事業者側が,当該商品の仕入れ価格を主張立証し,消費者はその限度で賠償をすれば足りるものとすべきである。
 このように,取消し後の原状回復については未解決の問題があり,法改正にあわせてこの点を明確にするか,少なくとも消費者庁の行政解釈で,明確な基準を示すことが求められる。

第10 損害賠償額の予定・違約金条項について(中間とりまとめ31頁以下)

1 意見の趣旨
 消費者契約法9条1号の「平均的な損害」は事業者が立証すべきことを明確にすべきである。

2 理由
 消費者契約法の存在根拠は,事業者と消費者との間に情報の格差があることである。解約によってその事業者に生じた「平均的損害」がいくらであるのかは,当該事業者にしかわからない性質のものである。これを消費者に主張立証させることは,不可能を強いるものであって全く不当である。
 現行の「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの当該超える部分」との条文を「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項はこれを無効とする。ただし,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を事業者が立証したときは,その限度において当該条項を有効とする。」等とあらためるべきである。

第11 不当条項の類型の追加について(中間とりまとめ30頁以下)

1 意見の趣旨
 無効とする条項のリストに,下記のものを加えるべきである。
(1)消費者の解除権・解約権を制限する条項
(2)契約文言の解釈権限を事業者のみに与える条項
(3)いわゆるサルベージ条項
(4)消費者の一定の行為をもって消費者の意思表示があったものとする条項
(5)当事者の権利・義務が発生するかどうか,権利・義務の内容の決定権限を事業者のみに付与する条項

2 理由
(1)消費者の解除権・解約権を制限する条項(解釈上認められる解除権)
 事業者に債務不履行があるにも関わらず,消費者側から契約を解除できないとする条項を無効とすることについては,専門調査会でも意見が一致していると思われる。
問題は,このような法定解除権ではなく,解釈上消費者に認められる解除権・解約権を制限する条項である。
 大学の入学金・前納授業料の不返還条項の有効性が争われた訴訟では,消費者(学生)に,任意解除権があることを前提として,前納授業料の不返還特約は,通常生ずべき損害を超えるという枠組みで判断されている。
 もし,この大学の入学規定の中に,「入学手続後は途中退学を認めない」という規定が含まれていたらどうなるであろうか。将来に向かって,契約期間の途中で解約することが完全に禁止されてしまうと,損害賠償額の予定や違約金の問題ではなくなり,契約期間の全部にわたる対価の支払いを強制されてしまうことになる。
 携帯電話の2年縛りルールも,2年の期間拘束を定めて,これを将来に向かって途中解約する場合の違約金が法9条1号の平均的損害を超えるか否かを問題にしている。しかし,そもそも2年の期間拘束は絶対で,期間途中の解約を一切認めない約款にしてしまうと,違約金どころか,期間中の基本料金の全額を支払わなければならない事態に陥る。
 大学の規定で退学を認めないようなケースは実際にはないであろうが,新聞の購読契約では,このようなことが頻繁に起きている。3年の期間を定めて契約したもの,途中で転勤のため転居せざるを得なくなり,将来に向かって解約しようとしたところ,新聞販売店と紛争になるという例である。そのようなケースでは,消費者は,通常生ずべき損害を超える何らかの支払を余儀なくされている可能性がある。いわゆる健康食品の継続購入契約で,効果がないと感じて途中解約を申し出た消費者に対し,残期間の代金の全額の支払いを請求するという事案も生じている。
 期間拘束の合意は,これによって事業者が得る利益だけでなく,消費者が得る利益(長期契約による割引など)もあり,期間拘束の特約をすべて排除することは合理的ではない。しかし,期間拘束の約款があることを盾に,消費者が解約できない,あるいは事実上不当に高額の違約金的な支払を余儀なくされるおそれがあることを考慮すれば,解釈上認められるところの解除権・解約権を制限する条項についても,何らかの歯止めが必要である。

(2)契約文言の解釈権限を事業者のみに与える条項
 契約条項の内容の解釈権限は,最終的には裁判所にあるはずである。その意味では,事業者のみに契約条項の内容を解釈する権利を付与する条項は,意味をなさないものである。
 しかしながら,現実の機能としては,訴訟にいたる前の段階で,事業者が自己に有利に交渉を進めるためのツールとして,この条項が機能する。消費者契約法の目的は,事業者と消費者との交渉力の格差を埋めることにあるのだから,こうした条項の事実上の機能を封じておく必要がある。

(3)いわゆるサルベージ条項
 本来無効な条項に「ただし,法律に反しない限度で有効である」などと注意書きをして,有効にみえるようにする条項がサルベージ条項である。
 これもまた,交渉上,事業者に有利に機能する事実上の効果がある。サルベージ条項は,本来なら全部無効であるはずの不当な条項の存在を許すことになり,消費者に泣き寝入り強いる結果を招く。
事業者は,どこまでが有効でどこからが無効になるかを事前に吟味し,あくまでも有効な約款を消費者に提供すべきである。

(4)消費者の一定の行為をもって消費者の意思表示があったものとする条項
 無料お試しキャンペーン期間経過後,特段の反対の意思表示がない場合は,自動的に本契約に移行するといった事案が典型例である。こういうケースでは,消費者が,締切の期限までに本契約に移行しない旨を通知すればよいわけではあるが,キャンペーン開始時には,この点についての説明が十分に行われていないことも多く,なし崩し的に契約に至ってしまう。事業者側には,この点についての十分な説明をする動機が希薄で,消費者の「うっかり」を誘う手口といってよい。このような手法で契約を締結させることは健全な商慣習に照らして適切ではない。事業者は,あらためて消費者の契約締結の意思を確認すればよく,そのためにさしたるコストがかかるわけでもない。
 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものとみなすこのような条項は,当該消費者が思ってもいない効果を発生させすることになり,その消費者に予期せぬ不利益を与えるおそれがある。

(5)当事者の権利・義務が発生するかどうか,権利・義務の内容の決定権限を事業者のみに付与する条項
 当事者の権利・義務が発生するかどうかの決定権限を事業者のみに付与する条項も,事業者の決定権限の行使が恣意的なものになれば,契約文言の解釈権限を事業者のみに与える条項と同様の問題を生ずる。
 もっとも,ネット上のセキュリティに関する措置など,個別具体的には,事業者側の迅速な判断が必要とされる例も想定されるので,一律に無効とすることは容易ではないかも知れない。
したがって,このような条項は原則として無効としつつ,その条項が消費者に与える不利益を上回るほどの事業者の必要性・相当性を明らかにした場合には,例外的に有効なものとするような規制が相当である。

*1 大阪高判平成15年7月30日
自動車を販売する会社が訪問勧誘により消火器の点検整備と薬剤の購入契約を締結した場合について,この消火器の充填薬剤の購入契約は,適用除外に該当しないとして,クーリング・オフを有効と認めた事案

*2 アビバ事件大津地判平成15年10月3日
被告のパソコン講座の予約制を申し込み,同講座を受講した原告が,厚生労働省の教育訓練給付制度を利用して受講することを希望していたが,被告の説明不足のために,同制度を利用することができなかったとして,被告に対し,損害賠償を請求した事案において,原告は,本件給付制度を利用することを前提として本件講座を受講したことが認められ,予約制に本件給付制度が適用されないことを予め知っていたならば,予約制を利用しなかったものと判断するのが相当であり,被告の従業員であるCは講座の内容だけでなく,予約制では本件給付制度を利用することができない旨の正確な説明をすべき義務があり,この点の説明を怠ったCの行為には過失があるとし,原告が給付制度を利用して受講することを申し出ていない点を考慮して2割の過失相殺をするなどして請求を一部認容した事例

*3 大阪高判平成16年4月22日
宝飾品の市場価格についての不実告知が取消事由にあたる重要事項であると判示した事例(消費者法ニュース60巻156頁,消費者法判例百選33事件