意見書・パブリックコメントの取り組み

特定商取引法専門調査会「中間整理」に対する意見書を提出しました。

 

特定商取引法専門調査会「中間整理」に対する意見書




第1 権利の政令指定制の見直しについて(中間整理3頁以下)

1 意見の趣旨
 権利の政令指定制を廃止し、権利の売買を特定商取引法の訪問販売等の規制の対象とすべきである。

2 意見の理由
 政令指定制のもとでは、事業者が、実質的には商品の売買や役務の提供である取引につき、契約の形式を権利の売買と構成することによって、特定商取引法の訪問販売等の規制を潜脱することも可能であるから、権利について政令指定制を維持していることは、商品と役務については政令指定制を廃止していることとの間で制度として矛盾していると言わざるを得ない。
 また、政令指定制では、次々と現れる新たな権利の売買によるトラブルに十分に対処することができない。このような「規制の後追い」状態は改善されるべきである。そのうえ、権利の売買によるトラブルが増加傾向にあるのであるから、政令指定制を廃止する必要性がなお一層高まっているといえる。
 なお、「商品」「役務」「権利」の3分類を維持するのであれば、3分類で対象とならない事案について、個別的な検討を積極的に行うべきである。

第2 勧誘に関する規制について(中間整理6頁以下)

1 意見の趣旨
  勧誘を拒絶する意思をあらかじめ表明した者に対して訪問勧誘や電話勧誘を行ってはならないという制度を導入すべきである。

2 意見の理由
  訪問販売や電話勧誘販売は、消費者が望むか否かにかかわらず、業者側が一方的に勧誘を開始する、いわゆる不招請勧誘による販売形態である。「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」(消費者庁平成27年5月)によれば、消費者の96%以上がこのような勧誘を望んでいない。にもかかわらず、この5年間に、消費者の27.9%が訪問勧誘を、70.2%が電話勧誘を受けたことがあるとされる。
 一方、国民生活センターが全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に基づいてまとめたところによれば、2013年度の訪問販売に関する相談件数は約9万件、電話勧誘販売に関する相談は約10万件に上る。訪問販売では、新聞をはじめとする強引な勧誘や長時間に及ぶ勧誘などの問題が多いとされ、電話勧誘販売では、高齢者に対する強引な健康食品の勧誘や、劇場型勧誘による金融商品の勧誘が目立つとされる。このように、不招請勧誘を端緒として、多数の消費者トラブル、消費者被害が発生している。
 消費者は、商品購入や、役務提供契約を希望するときは、いつでも自発的に店舗に赴いたり、通信販売を利用したりすることができる。消費者のほとんどが望んでいないのに、不招請勧誘を甘受しなければならない理由はない。
 現行の特定商取引法でも、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対しては、再度の勧誘を行うことは禁止されているが、一度勧誘を受けて、これを断ってからでなければ、勧誘を拒絶する消費者に対する勧誘が禁止されないというのは不合理である。あらかじめ不招請勧誘を拒絶する意思を表示した消費者に対しては、一切の勧誘を禁止すればよいだけのことである。
 これに対しては、訪問販売業界から、営業の自由を過度に制限する規制であるとの反論がなされている。
 しかし、消費者には、生活の平穏を守る権利があり、勧誘を断る権利がある。消費者が不招請勧誘に耐えなければならない義務などないのであって、勧誘を受けたくない消費者に対する訪問勧誘や電話勧誘を行う自由が保障されるべきとは到底認められない。訪問勧誘や電話勧誘は、消費者がそれらを自由な意思で受け入れる限りにおいて許容すれば足りるというべきである。
 また、一部の悪質業者と健全な営業を行っている事業者を同一視して過剰な規制をかけるべきではないという議論も、新聞業界を中心に展開されている。
 しかし、新聞という商品自体に問題があるわけではないとしても、その販売方法に大きな問題があることは、訪問販売に関する消費者からの相談の中で、新聞の販売に関連した相談が最も多いことからも明らかである。
 さらに、平成20年特定商取引法改正の国会審議において、「通常のセールスと悪質な勧誘の線引きについて、政府の見解をお伺いします。」との質問に対し、甘利明経済産業大臣は、「消費者が契約を締結しないという意思を示した場合に、これを無視して勧誘を行うことを悪質な勧誘と考えたものであります。」と答弁している(衆議院本会議平成20年5月15日議事録)。このような考え方によれば、悪質業者であっても、健全な事業者であっても、消費者の勧誘を望まない意思が明確に表示されている場合には、消費者の意思を尊重し、勧誘をしないことが求められているというべきである。そして、このことは、消費者が一度勧誘を受けた後に勧誘を拒否した場合であっても、事前に勧誘を拒否した場合であっても、同様に妥当するというべきである。
 不招請勧誘が多くの消費者被害の温床となってきたことは周知の事実である。今後、わが国における消費者被害を大幅に減少させることを可能とする、事前拒否者に対する訪問勧誘・電話勧誘を禁止する制度を是非とも導入すべきである。

第3 アポイントメントセールスにおける来訪要請方法について(中間整理17頁)

1 意見の趣旨
 アポイントメントセールスが成立する来訪要請方法として、勧誘目的を告げないあるいは他と比して著しく有利な条件での契約締結が可能な旨を告げて行う、住居訪問以外の場所における対面での要請、SNSやSNS以外の広告等による要請を政令で追加指定するべきである。

2 意見の理由
 従来の来訪要請方法では捕捉しきれない新たなアポイントメントセールスの手法が出現しており、そうした手法についても規制する必要性は全く変わらない。特に、SNS等の爆発的な普及により、SNS等を利用したアポイントメントセールスによる消費者被害は、今後一層拡大するおそれが強い。
 なお、「勧誘目的を告げない」という要件が明確でないとして反対する意見があるようであるが、この要件は従来の来訪要請方法についても規定されているものであるから、新たな手法によるアポイントメントセールスを規制することに反対する理由にはならないと考えられる。

第4 通信販売における虚偽・誇大広告に関する取消権について(中間整理18頁)

1 意見の趣旨
 通信販売において、事業者による虚偽・誇大広告によって消費者の意思形成が行われた場合に、消費者の契約の取消し等を認める規定を設けるべきである。

2 意見の理由
 通信販売、特にインターネット通販の急激な拡大に伴い、インターネット通販に関する苦情相談件数が増加傾向にある。今後も消費者被害が増加することが予想され、規制の必要性が強い。
 しかし、現行の虚偽・誇大広告に対する規制手段(行政処分・刑事罰)では、消費者被害の直接的な救済につながるわけではなく、民事的な救済手段を用意するべきである。
 インターネット通販においては、画面に膨大な情報が表示されるため、利用者にとって情報の真偽の判断が極めて困難な場合がある。また、サイト上の複数のページに情報が記載されており、利用者が画面を操作してページを行き来しながら閲覧する必要があるため、利用者にとって重要な情報が記載されたページにたどり着けなかったり、重要な情報を見落としたりして、商品の正しい情報を把握することが困難な場合がある。こうしたインターネット通販の特徴から、虚偽・誇大広告が野放しにされれば、利用者が望まない商品を購入してしまうおそれは、インターネット通販以外の販売方法に比べ、類型的に高いと考えられる。
 したがって、上記のような取消し等を認める規定を早急に設けるべきである。

第5 インターネットモール事業者の取扱いについて(中間整理19頁)

1 意見の趣旨
 特定商取引法にインターネットモール事業者の加盟店管理責任を規定するべきである。

2 意見の理由
 上記のとおり、インターネット通販においては、利用者が望まない商品を購入してしまうおそれは類型的に高いと考えられる。そして、インターネット通販を行う事業者の中には、短期的にインターネットモールに出店し、音信不通になる事業者も存在するところ、そのような事業者と取引した消費者が被害を受けた場合、当該消費者の救済は極めて困難となる。
 こうした被害を防止し、また、被害が生じた場合の救済のため、インターネットモール事業者の加盟店管理責任を規定する必要がある。
 なお、インターネットモールに出店する事業者と取引した消費者は、インターネットモール事業者をも信頼して取引を行っている面が多分にあるのであるから、インターネットモール事業者の責任を観念することは可能と考えられる。

第6 通信販売事業者の表示義務について(中間整理19頁)

1 意見の趣旨
 特定商取引法に基づく通信販売事業者の表示義務の対象項目としてアクワイアラー・PSPの登録情報を追加すべきである。

2 意見の理由
 現在、インターネット通販に関する苦情相談のうち、外国関係の苦情相談件数が急増している状況にあるところ、海外の通販業者との取引において、最も多く利用される支払方法がクレジットカード決済である。
 この点、海外の加盟店と取引を行う海外のアクワイアラーやPSPに対しては割賦販売法の規制が及ばないため、消費者が被害を受けた場合の救済が困難となることが多い。
 現行の通信販売事業者の表示義務の対象項目には、アクワイアラー・PSPに関する情報が含まれていないため、消費者としては、割賦販売法により保護される取引かどうかを判断できない状況にある。
 そこで、通信販売事業者にアクワイアラー・PSPの登録情報を表示させることにより、消費者が取引の安全性を判断することができる環境をつくるべきである。

第7 電話勧誘販売における過量販売解除の導入について(中間整理21頁)

1 意見の趣旨
 電話勧誘販売においても、過量販売が行われた場合には消費者に契約の解除を認める規定を設けるべきである。

2 意見の理由
 電話勧誘販売の過量販売に関する苦情相談件数は、近年増加傾向にある。過量販売の被害を受けるのは高齢者が多いところ、今後更なる高齢化が進むことからすれば、過量販売の被害が増加するおそれがある。
 訪問販売に関しては、既に過量販売解除権が導入されているところ、過量販売による消費者被害を予防・救済する必要性が高いことは、訪問販売であっても、電話勧誘販売であっても、同様である。
 したがって、電話勧誘販売においても、過量販売解除権を導入すべきである。

第8 特定継続的役務提供における美容医療契約の取扱いについて(中間整理21頁)

1 意見の趣旨
 特定継続的役務提供に関し、美容医療契約を政令指定役務として追加指定するべきである。

2 意見の理由
 美容医療契約に関する苦情相談件数は近年増加傾向にあり、中でも多いのが販売方法や契約・解約に関する相談である。相談事例からは、美容医療を行う事業者の中には、問題のある勧誘・広告を行っている事業者が存在することがうかがわれる。
 美容医療契約の性質上、契約を締結し、施術を受けるようになった後に、消費者が、契約の必要性や施術の有効性等に疑問を持ち、中途解約をしたいと考えるようになることは往々にしてあることである。そのような場合には、特定継続的役務提供における中途解約権により、消費者を保護することが適切であるし、また、事業者が問題のある勧誘・広告を行っていた場合には、クーリングオフにより保護すべきである。美容医療契約についても、現行の政令指定役務と同様に、消費者を保護すべき必要性が高いといえる。
 また、美容医療契約は、一般的に、相当高額な費用が定められていることが多く、消費者が不本意な契約を締結した場合に受ける被害の程度が大きい契約類型ということができる。この点からも、消費者を保護すべき必要性が高いと考えられる。